名古屋地方裁判所 昭和46年(ワ)2649号 中間判決 1972年4月11日
中間判決
原告
河村弘
右訴訟代理人
中条忠直
(手形上の住所)名古屋市南区堤町四の六〇
(送達場所)同市同区元塩町二の二浜田薬局方
被告
白一こと
白万鐘
右訴訟代理人
伊藤典男
浅井正
主文
本件異議申立は適法である。
事実
一、原告訴訟代理人は次のとおり述べた。
本件手形判決の判決正本(以下本件判決という)は被告方に昭和四六年一〇月一九日に送達されたもである。
しかるに被告が右手形判決に対する異議申立書を名古屋地方裁判所に提出した日は同年一一月六日であるから、すでに異議申立期間を経過した後であることは明白である。
しかして被告は昭和四六年一一月三日に韓国から日本に再入国し、右同日頃本件判決が送達されたことを知つた旨を主張するが、被告が日本に再入国した日は同年一〇月二七日である。そして被告は日本に再入国した時点で、自己の住所地に電話で連絡することが容易となつたものであるから、被告が右電話等で自宅に連絡すれば、本件判決が送達されたことを知り得べき状態となつたものというべきである。
したがつて同年一〇月二七日に民事訴訟法一五九条に定める「責ニ帰スベカラザル事由」は止んだものというべく、同条の追完期間は、同年一一月三日の満了をもつて終了したものであるから本件異議の申立は追完の期間を徒過した後になされたものであつて、不適法として却下を免れない。
二、被告訴訟代理人は次のとおり述べた。
本件判決は昭和四六年一〇月一九日に被告方に送達されたが、被告が本件判決の送達を受けた当時、被告は韓国に出張しており日本にいなかつたものである。
被告は同年一一月三日韓国から日本に再入国して本件判決が送達されていることを知つたがこれは民事訴訟法一五九条に定める「当事者カ其ノ責ニ帰スベカラザル事由ニ由リ不変期間ヲ遵守スルコト能ハザリシ場合」に該当する。そして被告は本件手形判決には不服であるから、訴訟行為の追完として本件異議の申立をなすものである。
三、立証<略>
理由
一、本件訴状及び本件手形訴訟における第一回口頭弁論期日の呼出状が、被告方に送達された日は昭和四六年九月三日であること、本件判決が被告方に送達された日は昭和四六年一〇月一九日であること、右の各送達報告書には被告の姪である「白」と刻した印影が押捺されていること、被告が本件手形判決に対して異議の申立をなした日は昭和四六年一一月六日であることは本件記録上明白である。
右によれば本件判決は被告人が受領したものといえなくもない。
二(一) しかしながら<証拠>によると次の事実が認められる。
被告は昭和四六年八月二八日に日本を出発して韓国に所用で赴き、同年一〇月二七日山口県下関港に再入国してその手続を了した。その後被告は小倉市に赴き、同所からフェリーに乗船して同月二九日神戸港に着き、姫路市の親戚に赴き、同所で数日滞在した後、同年一一月一日名古屋市の自宅に帰宅した。そして同月二日名古屋市南区役所に対して再入国による登録証の返還手続をした。その後同月三日頃被告は留守中に来た手紙を整理していた際、本件判決が送達されていたことを知り、翌四日被告代理人に対して本件の訴訟委任をなしたものである。なお被告は同年一〇月二七日に日本に再入国した後、帰宅するまでの間、自宅に電話等で連絡するようなことはしなかつた。
以上の事実が認められ他に右認定に反する証拠はない。
(二) 右の認定事実によると被告は本件判決が送達された当時韓国に滞在しており、名古屋市の自宅にはいなかつたものといわなければならない。
したがつて、被告は自己の責に帰すべからざる事由によつて昭和四六年一〇月一九日に本件判決が送達されたことを知らなかつたものというべきである。
三そこで次に何時右の事由が止んだかについて検討する。
原告は右の点に関して被告において昭和四六年一〇月二七日に日本に再入国した後自宅に帰宅するまでの間において、自宅に電話等で連絡しなかつたのは、被告の過失であり、右同日民事訴訟法一五九条に定める「責ニ帰スベカラザル事由」が止んだものであると主張している。
しかし被告が常日頃訴訟を行つている者であるならばともかく、そのような事実を認めるに足る証拠がない本件においては被告が同月二七日に日本に再入国した日に電話で自宅に連絡し、裁判所から書類が送達されていないか否かを確認しなかつたということに被告の過失があるということはできない。
しかして前認定のように、本件判決は、被告方に同居している者が受領しているのであるから、右は被告方に同居している者が補充送達(民事訴訟法一七一条一項)を受けたものということができ、有効に本件判決が送達されたものというべきである。しかし被告は、右の補充送達を受けた当時、自己の責に帰すべからざる事由によつてこれを知ることができなかつたものである。
そして右の「責に帰すべからざる事由」が止んだ時は、本件においては、被告が名古屋市の自宅に帰宅した昭和四六年一一月一日であるというべきである。何となれば、被告は約二カ月にわたつて自宅に不在であつたのであるから、被告が帰宅した際、同居人に対して留守中の出来事についてたずねないはずがなく、また右の同居人としても、被告が帰宅した際、当裁判所から書類が送達されていることを被告に言わないはずがないと考えられるからである。
したがつて本件においては、民事訴訟法一五九条に定める期間は同月二日から進行するものといわなければならない。
四してみれば、本件異議申立は右に認定判断した期間内になされていることが明白であるから、もとより適法であるといわなければならない。
よつて主文のとおり中間判決をする。
(高橋爽一郎)